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第十三話 神を喰らうもの

Auteur: 天咲琴乃
last update Date de publication: 2026-10-01 20:15:39

神域の門が、大きく軋んだ。

ギィィィ――。

耳を塞ぎたくなるような音が、本殿に響く。

門の向こう。

水と雷と炎が交わる神域で、巨大な黒い影がうごめいていた。

「……神を喰らうもの?」

ことねぇが祖母を見る。

祖母の顔から血の気が引いていた。

「古い記録に、わずかに残っています」

「何なの?」

「人の恐れや憎しみ、悲しみ――行き場を失った感情が、長い年月をかけて形を得たもの」

ことねぇの胸がざわつく。

――大嫌い。

第一夜。

自分がそう思った直後、男が死んだ。

「じゃあ……私が?」

『違う!』

鳴雷の声が飛んだ。

ことねぇが顔を上げる。

門の向こうで、鳴雷は黒い影を睨んでいた。

『また全部自分のせいにすんなって言っただろ』

「でも……」

『あれは、お前が生まれるよりずっと前からいる』

高龗も静かに続ける。

『人の感情そのものが悪いわけではない』

イズミが彼を見る。

『怒りも、悲しみも、恋も。本来は人が生きるために持つものだ』

「では、なぜ……」

『長く閉じ込めすぎた』

高龗の青い瞳が、古い祠のある方角へ向く。

『この村は、あまりにも長く感情を恐れた』

ことのが小さく呟いた。

「恋をして
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  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第十三話 神を喰らうもの

    神域の門が、大きく軋んだ。ギィィィ――。耳を塞ぎたくなるような音が、本殿に響く。門の向こう。水と雷と炎が交わる神域で、巨大な黒い影がうごめいていた。「……神を喰らうもの?」ことねぇが祖母を見る。祖母の顔から血の気が引いていた。「古い記録に、わずかに残っています」「何なの?」「人の恐れや憎しみ、悲しみ――行き場を失った感情が、長い年月をかけて形を得たもの」ことねぇの胸がざわつく。――大嫌い。第一夜。自分がそう思った直後、男が死んだ。「じゃあ……私が?」『違う!』鳴雷の声が飛んだ。ことねぇが顔を上げる。門の向こうで、鳴雷は黒い影を睨んでいた。『また全部自分のせいにすんなって言っただろ』「でも……」『あれは、お前が生まれるよりずっと前からいる』高龗も静かに続ける。『人の感情そのものが悪いわけではない』イズミが彼を見る。『怒りも、悲しみも、恋も。本来は人が生きるために持つものだ』「では、なぜ……」『長く閉じ込めすぎた』高龗の青い瞳が、古い祠のある方角へ向く。『この村は、あまりにも長く感情を恐れた』ことのが小さく呟いた。「恋をしてはいけない、から?」迦具炎が頷いた。『それも一つだ』黒い影が膨れ上がった。『憎むな』声がする。『怒るな』いくつもの声が重なる。『恋をするな』『悲しむな』『神に従え』それは一人の声ではなかった。何十人。何百人。長い時間の中で、この土地に残された声。ことねぇは耳を塞いだ。「……嫌だ」『ことねぇ!』鳴雷が叫ぶ。「こんなの嫌だよ!」ことねぇは顔を上げた。「嫌いって思うことくらいあるよ!」イズミとことのが彼女を見る。「腹が立つことだってあるし、泣くことだってある。好きな人ができることだってある!」『ことねぇ……』「それ全部我慢しなきゃ巫女じゃないなら――」ことねぇは門の向こうを睨んだ。「そんなの無理!」ことのが、ふっと笑った。「うん。ことねぇには絶対無理」「そこ同意するところ?!」「でも私も無理」ことねぇが妹を見る。ことのは迦具炎を見つめた。「好きになったら、好きって思いたい」迦具炎の瞳が揺れる。「まだ、あなたを好きかは分からないけど」『……そこは分からないのか』「記憶ないから」『そうだった』「でも」ことのは少しだ

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  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第八話 蔵の奥の花嫁衣装

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  • 巫女は恋をしてはいけないー三姉妹の巫女の禁断の恋ー   第七話 雷様は口が悪い

    金色の稲妻が、青空を裂いた。「ぎゃあああああ!」ことねぇは頭を抱えてしゃがみ込んだ。轟音が山を揺らす。祠の前に立つ祖母の足元へ、雷が落ちた。――そう見えた。けれど、地面は焦げていなかった。祖母も無事だった。雷が貫いたのは、祖母の背中にまとわりついていた黒い影だった。『ギィィィィッ!』耳をつんざくような声。影は苦しげに身をよじり、祠の奥へ引きずり込まれていった。扉が勢いよく閉まる。静寂。ことねぇは恐る恐る顔を上げた。「……生きてる?」「生きてるわよ」イズミが答える。「ことのは?」「生きてる」「おばあちゃんは?!」祖母はその場に膝をついていた。三人は駆け寄った。「おばあちゃん!」イズミが肩を支える。祖母は顔を上げ、孫たちを見た。「……どうして、ここへ」「おばあちゃんが心配だったから!」ことねぇが答える。「手紙を見たんです」イズミも言った。祖母は目を閉じた。「来てはいけないと、書いたでしょう」「でも!」ことねぇは言い返しかけた。そのとき。『だから言っただろ!』頭の中に、男の声が響いた。「うわっ!」ことねぇは飛び上がった。「また出た!」ことのが振り向く。「何が?」「知らない男!」『まだ知らない男扱いかよ!』「だって知らないし!」『俺はお前を――』声が途切れた。ことねぇは眉を寄せる。「……何?」返事はない。「おーい?」『……何でもねえ』「言いかけたじゃん!」『気にすんな!』「気になるわ!」イズミがことねぇの肩に手を置いた。「ことねぇ。誰と話しているの?」「さっきの声! 雷の男!」祖母の表情が変わった。「……雷?」ことねぇは頷いた。「口が悪いの!」『おい!』「あと、うるさい!」『お前にだけは言われたくねえ!』「何よ!」ことのがぽつりと言った。「……似た者同士?」「どこが?!」ことねぇと男の声が、同時に叫んだ。ことねぇは固まった。「…………」『…………』ことのは首を傾げた。「今、誰かと声が重なった?」「……気のせい!」『気のせいだ!』「だから真似しないで!」『してねえよ!』イズミは困ったように微笑んだ。「……とにかく、ここを離れましょう」祖母も頷いた。「ええ。日が暮れる前に」ことのが祠を見上げた。「中にいたの、

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